株式交付制度の手続きは?株式交換との違いやメリットも紹介
2019年12月に会社法の一部を改正する法律が成立したことに伴い、株式交付の制度が誕生しました。利用するためには、株式交付計画の作成や株主総会で承認を得るなどの手続きが必要です。
株式交付制度と株式交換との違いや、関連する税制も理解しておかなければなりません。このコラムでは、株式交付制度を利用するにあたって必要な手続きや、買い手・売り手にとってのメリットなどをわかりやすく解説します。
そもそも株式交付の制度とは
株式交付とは、株式会社が他の株式会社を子会社化するために株式を譲り受け、その対価として譲渡人に自社の株式を交付することです(会社法第2条第32号の2)。自社の株式を交付する側を株式交付親会社、子会社になる側を株式交付子会社と呼びます。
ここから、制度が導入された経緯や、類似する用語との違いについて確認していきましょう。
参考:e-Gov法令検索「会社法 第二条三十二の二」
会社法改正で株式交付制度が導入された経緯
2019年12月に会社法の一部を改正する法律が成立したことに伴い、株式交付の制度が誕生しました。主な目的は、会社買収(M&A)を円滑に進められるようにすることです。
株式交付制度の導入により、以前から会社法に規定されていた手段(株式交換や現物出資)と比べ、手間をかけずに子会社化できるようになりました。
株式交付と株式交換の違い
株式交換とは、100%子会社にするために、売り手(完全子会社になる会社)の株主に対して買い手(完全親会社になる会社)の株式を割り当てるM&A手法のことです。株式交付と株式交換の違いとして、親会社となる会社の種類や株式の取得方法などがあげられます。
株式交付では、株式会社のみが親会社になれるのに対し、株式交換は合同会社(出資者と経営者が同一の形態)も対象です。また、株式交付は過半数の株式を取得すればよいのに対し、株式交換では売り手の株式100%を取得して完全子会社にしなければなりません。
株式交付と現物出資の違い
現物出資とは、金銭以外の財産(動産・不動産・有価証券・金銭債権など)を出資することです。株式交付と現物出資の違いとして、対価があげられます。
株式交付の場合、買い手が提供するのは自社株や金銭です。それに対して現物出資の場合、買い手は土地や建物のように、譲渡可能で貸借対照表に資産として計上できるもの(のれんや知的財産権なども対象)を提供します。
株式交付手続きの流れ
株式交付手続きの流れは、一般的に以下の流れで進められます。
- 株式交付計画を作成する
- 株主総会で承認を受ける
- 株主に計画を通知する
- 株式の割当て後に効力が発生する
- 事後開示書類の備え置く
それぞれ解説します。
1. 株式交付計画を作成する
株式交付制度を利用するにあたって、まず株式交付計画を作成します。株式交付計画に盛り込む内容は、主に以下のとおりです。
- 売り手(子会社)の商号や住所
- 買い手(親会社)が譲り受ける株式の下限
- 対価として交付する株式や金銭の内訳
- 株式を譲渡する期日
- 株式交付の効力が発生する日
株式交換にあたって締結する契約(株式交換契約)に該当するものが、株式交付にはありません。その分、株式交付計画の作成が必要です。
2. 株主総会で承認を受ける
作成した株式交付計画について、親会社側の株主総会で特別決議を経なければなりません。特別決議は、原則として議決権の過半数を有する株主が出席し、そのうち3分の2以上の賛成を必要とする決議のことです。
反対する株主がいる場合、株式の買取を請求される可能性があります。ただし、対価として金銭を支払わない場合や支払額が少ない場合は、反対する株主がいても株式買取請求は基本的に認められません。
なお、簡易株式交付制度を利用する場合は、株主総会を経ずに取締役会決議でできます。簡易株式交付制度とは、公開会社で交付する対価が親会社の純資産額の5分の1を超えない場合に限り、利用できる制度です(会社法第816条の4)。
参考:e-Gov法令検索「会社法 第八百十六条の四」
3. 株主に計画を通知する
買い手(親会社)は、売り手(子会社)の株主に対して、株式交付計画の通知が必要です。
通知後、株式譲渡を希望する売り手側株主は、通知書を提出して買い手に知らせます。記載する内容は、主に以下のとおりです(会社法第774条の4第2項)。
- 氏名または名称・住所
- 対象の株式数
そのほか、買い手は売り手株主に株式を譲渡する旨を、自社の株主に対しても通知しなければなりません。
参考:e-Gov法令検索「会社法 第七百七十四条の四第二項」
4. 株式の割当て後に効力が発生する
買い手は売り手株主の申し込み内容をもとに、どの株主から何株取得するのかを決めて(割り当てて)いきます。その後、株式交付計画に記載された効力発生日が到来した際に、売り手の株式が買い手に譲渡、買い手の株式が売り手に交付されて手続きは完了です。
なお、買い手は効力が発生する前の日までに対象株主に対して通知しなければなりません。
5. 事後開示書類の備え置く
買い手(親会社)は、効力発生後に事後開示資料を本店に備え置かなければなりません(会社法第816条の10)。事後開示資料とは、株式交付にあたって譲り受けた株式数などを記載した書面や電磁的記録のことです。
原則として株主は、営業時間内であれば書面の閲覧や謄本・紗本の交付などの請求ができます。ただし、請求の種類によっては手数料を支払う必要があります。
参考:e-Gov法令検索「会社法 第八百十六条の十」
株式交付制度を利用するメリット
株式交付制度は、買い手にも売り手にもメリットがあります。主なメリットは、以下のとおりです。
- 【買い手】資金調達の負担を軽減できる
- 【買い手】完全子会社化しない場合も活用できる
- 【売り手】税制面で優遇を受けられる
それぞれ解説します。
【買い手】資金調達の負担を軽減できる
株式交付制度を利用すれば現金調達の負担を軽減できることが、買い手(親会社になる側)にとってのメリットです。
M&Aには、株式譲渡や事業譲渡などの手法が用いられることがあります。株式譲渡は株式を譲渡することで対象会社の所有権・経営権を移転させる手法で、事業譲渡は事業やそれに関する資産・権利などを他の会社に売却する手法です。
株式譲渡も事業譲渡も、一般的に買い手は多額の資金を用意しなければなりません。それに対し、株式交付は自社の株式も対価にできるため、金銭的負担を軽減可能です。
【買い手】完全子会社化しない場合も活用できる
完全子会社としない場合に活用できる点も、買い手が株式交付制度を利用するメリットです。
株式交換の場合、実施にあたって100%株式を取得(完全子会社化)しなければなりません。一方、株式交付制度の場合は、完全子会社化までする必要がなく、議決権の過半数を取得すれば実施できます。実施にあたって買い手株主と売り手株主の利害関係を調整しやすいうえに、資金負担も抑えられます。
【売り手】税制面で優遇を受けられる
売り手(子会社側)にとっては、税制面での優遇を受けられる点が株式交付制度のメリットです。
M&Aでは株式譲渡で生じる利益に税金がかかるため、売り手に負担がかかります。しかし、株式交付制度は株式交換と比べて税制優遇を受けるためのハードルが低く、売り手の負担を軽減できるでしょう。
税制の概要については、後ほど詳しく解説します。
株式交付制度を利用する際のデメリット・注意点
株式交付制度を利用するにあたって、以下のデメリットや注意点を理解しておかなければなりません。
- 子会社化対象が日本の株式会社に限定される
- 税制優遇の適用には株式割合に条件がある
- 株式交付制度に関する情報や事例が少ない
それぞれ解説します。
子会社化対象が日本の株式会社に限定される
株式交付制度の対象は、「日本の株式会社」に限定されます。そのため、クロスボーダー案件などには利用できない点に注意が必要です。
会社法第2条第32号の2によると、株式交付制度の対象になる「株式会社」は「法令省令が定めるものに限る」とされています。これは、日本法の株式会社で外国会社などには適用できないと解されることが一般的です。
なお、株式交付制度と異なり、株式交換の手法は「株式会社」だけでなく「合同会社」にも利用できます。
税制優遇の適用には株式割合に条件がある
株式交付制度の利用にあたって、売り手が税制優遇を適用するためには、株式割合の条件を満たさなければならない点に注意しましょう。
税制優遇措置を適用して課税を繰り延べるためには、株式交付の対価の8割以上が買い手の自社株でなければなりません。そのため、現金が対価の2割超を占めないよう買い手は配慮が必要です。
株式交付制度に関する情報や事例が少ない
関連する情報や事例が少ない点が、株式交付制度を利用する際のデメリットとしてあげられます。
株式交付は、会社法が2019年に改正され、2021年3月に施行されたことによって誕生した制度です。比較的新しい制度のため、調べる際に手間取ることがあるでしょう。
スムーズに株式交付制度を利用するためには、関係省庁が発表する資料をこまめにチェックしたり、専門家へ相談したりすることが大切です。
株式交付制度利用時の会計処理と税制
会計上、株式交付は株式交換と同じ組織再編行為です。そのため、株式交換と同様に「企業結合に関する会計基準」などの現行の会計基準に則って処理します。
一方、2021年度の税制改正により、株式交付制度向けの税制が整いました。株式交付制度において、子会社側の株主は親会社の株式交付を受けた際に、自分から親会社側への株式の譲渡はなかったものとみなされます(譲渡損益計上を繰り延べられる)。ただし、交付を受けた株式の価額が対価の8割以上を占めることが条件です。
なお、2023年の税制改正に伴い、同年10月1日以降、株式交付直後の株式交付親会社が一定の同族会社に該当する場合は繰り延べの対象外となりました。
参考:国税庁「No.1545 株式等を対価とする株式の譲渡に係る譲渡所得等の課税の特例」
まとめ
株式交付とは、株式会社が他の株式会社を子会社化するために株式を譲り受け、その対価として譲渡人に自社の株式を交付することです。買い手は資金負担を軽減できるメリット、売り手は税制優遇を適用しやすいメリットがあります。
2021年に施行されたばかりの新しい制度のため、株式交付の手続きを進めるにあたって参考にできる情報や事例が少ない点に注意が必要です。株式交付手続きを成功させるには、専門家への相談を検討しましょう。
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