親族外承継とは?メリット・デメリットや事業承継税制の注意点も解説

親族外承継とは、血縁関係・親族関係以外にある人に会社や事業を引き継ぐことを指します。
親族外承継の主なメリットは、役員や従業員に引き継ぐ場合に社風を維持しやすいこと、社外の第三者に引き継ぐ場合に幅広い候補者のなかから選べることなどです。ただし、実施時には親族や従業員・取引先などの理解を得なければなりません。
このコラムでは、親族承継の方法や、実施するメリット・デメリットなどについて詳しく解説します。
親族外承継とは
親族外承継とは、血縁関係や親族関係にある人以外が事業承継することを指します。事業承継とは、経営者が会社や事業を後継者に引き継ぐことです。
ここからは、親族外承継と親族内承継の異なる点や、事業承継のうち親族外承継が占める割合について解説します。
親族内承継と異なる点
親族外承継と親族内承継の異なる点は、後継者が親族であるかどうかです。
親族外承継では、親族以外の役員や従業員、第三者に引き継ぎます。それに対し、親族内承継では、代表者の息子や娘、配偶者、娘婿などの親族が事業承継する点がポイントです。
従来、日本の中小企業では子どもなどに事業を承継する親族内承継が一般的でした。しかし、後継者不足の悩みを解消するために、近年は親族外承継による事業承継も注目されています。
なお、帝国データバンクが全国の全業種約27万社を対象に実施した後継者動向に関する調査によると、2024年の後継者不在率は52.1%でした。2017年のピーク時(66.5%)と比較すると改善傾向にはありますが、以前過半数を占めています。
事業承継のうち親族外承継が占める割合
2024年(速報値)の帝国データバンクの調査によると、代表者の交代があった企業のうち、同族承継によるものは32.2%、内部昇格によるものが36.4%、M&Aなどによるものは20.5%、外部招聘によるものは7.5%でした。つまり、事業承継のうち親族内承継(同族承継)が3割超を占めるのに対し、親族外承継(内部昇格+M&Aなど+外部招聘)は6割超を占めているとも考えられます。
2020年時点において最も大きな割合を占めているのは、同族承継の39.3%でした(次は内部昇格の31.9%)。しかし、2024年速報値では内部昇格と同族承継の順位が逆転しており、親族に引き継ぐ流れから第三者へ経営権を渡す流れへと変わりつつあることがわかります。
親族外承継を実施する方法
親族外承継を実施する主な方法のひとつが、役員や従業員への承継です。役員に事業を承継することをMBO(Management Buy Out)、従業員に事業を承継することをEBO(Employee Buy Out)と表現することがあります。
社外の相手に引き継ぐことも、親族外承継を実施する方法です。外部の第三者へ引き継ぐには、主にM&A(Mergers and Acquisitions、合併と買収)が用いられます。
なお、親族外承継の主な対象は、経営権や株式です。経営権の承継では、オーナーが引き続き株式を所有して経営権のみを渡すのに対し、株式譲渡は株式を譲渡して会社(事業用資産)ごと承継させます。MBOやEBOは、基本的に株式譲渡を用いる手法です。
親族外承継を実施するメリット
役員・従業員に承継するケース、社外の相手に承継するケースに分けて、親族外承継を実施するメリットを解説します。
役員・従業員に承継するメリット
親族外承継のうち、役員や従業員に承継することを選択するメリットは、後継者候補が経営者としての素質を持っているのか見極められることです。候補者と一緒に働いている間に、経営に関する知識を身につけているか、管理職としてリーダーシップを発揮できているかなどを確認できます。
また、現在の経営方針や社風を維持しやすいことも、役員や従業員を後継者とする事業承継を進めるメリットです。長年勤務している役員や従業員であれば、承継する会社のやり方や社内の雰囲気などについて説明しなくてもスムーズに理解できるでしょう。
社外の相手に承継するメリット
社外の相手に承継して親族外承継を実現するメリットは、幅広い候補者から選べることです。親族や役員・従業員のなかに後継者として相応しい人物がいなくても、社外の相手であれば適任者が見つかる可能性があります。
また、M&Aで社外の相手に承継する場合、シナジー効果を期待できることもメリットです。シナジー効果とは、複数の企業や部署が結びつくことにより、それぞれ単独で得られる以上の効果を創出することを指します。たとえば、M&A実施後に物流の仕組みを共通化してシナジー効果を発揮することにより、コストを軽減できるでしょう。
なお、経営権のみを社外の相手に承継する場合は、M&Aの代わりに外部招聘を用いることがあります。
親族外承継を実施するデメリット
役員・従業員に承継するケース、社外の相手に承継するケースに分けて、親族外承継を実施するデメリットを解説します。
役員・従業員に承継するデメリット
役員や従業員に承継する親族外承継を選択するデメリットは、後継者に金銭面で負担をかける可能性がある点です。
株式譲渡で親族外承継を実施する場合、役員や従業員自身で株式の購入資金を用意しなければなりません。企業価値次第では資金が高額になるため、後継者として指名された役員や従業員に承継の意思があるにもかかわらず、断念せざるをえないケースもあるでしょう。
なお、株式の買取資金がない場合の主な対策として、後継者が金融機関から融資を受ける方法があります。
社外の相手に承継するデメリット
M&Aや外部招聘で社外の相手に承継するデメリットは、買い手によって会社の雰囲気が変わる可能性がある点です。
親族内承継や役員・従業員への承継と異なり、社外の相手に承継する場合は、後継者の人柄や経営者としての素質の見極めを十分できないことがあります。そのため、親族外承継を実施してから社風や労働環境が大幅に変化することで従業員のモチベーションを低下させたり、ビジネスのやり方が大幅に変わって取引先からの信頼を失ったりすることもあるでしょう。
社外の相手への承継を成功させるためには、事業承継前にできるだけ後継者候補との接点を増やし、人となりを把握することが必要です。
親族外承継を株式譲渡で実施する際の流れ
親族外承継を株式譲渡で実施する際の一般的な流れは、以下のとおりです。
- 後継者を選び交渉する
- 株式譲渡契約を締結する
- 株式譲渡や株主名簿の書き換えを実施する
各手順について、解説します。
1. 後継者を選び交渉する
事業承継を決断したら、後継者を選定します。社内に経営者としての素質を持つ役員・従業員はいるか、外部に自社の代表者としてふさわしい人物はいるか、M&Aでシナジー効果を期待できる会社はあるかなどを検討しつつ、後継者を考えるとよいでしょう。
後継者を決め、相手にも承継の意思がある場合は、株式譲渡の交渉を進めます。専門家の意見を参考に株式の譲渡価格を算定し、後継者と価格や条件について話し合いましょう。
なお、後継者選定に先立って、自社が抱える課題や財務状況などを整理しておくことが大切です。現代表者が会社の現状を把握しておくことで、スムーズに交渉や引き継ぎができます。
2. 株式譲渡契約を締結する
後継者との話し合いがまとまったら、株式譲渡契約書を作成して株式譲渡契約を締結します。株式譲渡契約書とは、株式譲渡する株式数や金額・支払方法・賠償責任などを明記した書類のことです。
締結後にトラブルが発生することを防ぐために、インターネットなどに掲載されているフォーマットをそのまま使用せず、弁護士などの専門家に確認して買い手と売り手の両方が理解・納得できる契約書を作成しましょう。
3. 株式譲渡や株主名簿の書き換えを実施する
株式譲渡契約の締結後、株式を譲渡します。ただし、株式譲渡制限会社(非公開会社)の場合は、株式の譲渡について株主総会もしくは取締役会の決議が必要です(会社法第139条)。
また、株式譲渡したことを第三者に主張するためには、株主名簿を書き換えなければなりません(会社法第130条第1項)。一般的には、株式を取得した人が株式名義書換請求書を会社に提出することにより、名簿の書き換えを進めます。
親族外承継を実施する際のポイント
親族外承継を実施する際のポイントは、主に以下のとおりです。
- 親族や従業員・取引先の理解を得る
- 信頼できる後継者を選び育成する
- 専門家に相談する
それぞれ解説します。
親族や従業員・取引先の理解を得る
親族外承継を実施することについて、自分の親族や従業員・取引先から理解を得るようにしましょう。
近年変化の兆しがみられる一方で、依然として日本では子どもなどの親族が会社を継ぐものという考え方がある程度残っています。そのため、親族がいるにもかかわらず、親族外承継を実施することを発表すると、現場に戸惑いが広がることがあるでしょう。
親族や従業員などが事業承継に納得していないと、承継の手続きや承継後の経営に支障をきたす可能性があります。スムーズに事業承継できるように、関係者に親族外承継を実施する理由を丁寧に説明することが大切です。
信頼できる後継者を選び育成する
スムーズに親族外承継するためには、信頼できる後継者を選んでから育成するまでに一定の期間を設けることもポイントです。
一般的に、後継者教育では、技術・ノウハウの教育や取引先への紹介、経営に関する教育などを実施します。短期間では十分に後継者教育ができない可能性があるため、親族外承継を決断次第、早めに準備に取り掛かることが大切です。
専門家に相談する
親族外承継を進めるにあたっては、専門家に相談することもポイントです。
社外の相手に承継する場合、M&Aに関する知識や経験がなければ、手続きの進め方や候補者の探し方などがわからず戸惑うことがあるでしょう。その点、M&A仲介などの専門家に相談することで、幅広いネットワークを活用してさまざまな候補から自社に適した相手を見つけられます。
親族外承継で事業承継税制を適用する際の注意点
後継者が贈与・相続で株式などを取得する際に事業承継税制を活用すれば、贈与税・相続税の納付の猶予や、猶予中の税金の納付の免除を受けられる場合があります。ただし、親族外承継で事業承継税制を適用する際にはいくつかの点に注意が必要です。
まず、親族との話し合いを重ねることを心がけなければなりません。なぜなら、親族の動向次第で事業承継実施後のトラブルにつながったり、事業承継税制を適用できなかったりすることがあるためです。
また、適用するためにはさまざまな要件を満たさなければならないため、事業承継税制の適用にはマニュアルの読み込みが欠かせません。
参考: 国税庁「事業承継税制特集」
まとめ
親族外承継とは、血縁関係や親族関係にある人以外が事業承継することです。役員や従業員に親族外承継することのメリットとしては後継者を見極められる点、M&Aで社外の相手に親族外承継を実施するメリットとしてはシナジー効果を期待できる点があげられます。
また、幅広い候補者のなかから後継者を選べる可能性があることも、社外の相手に親族外承継を実施するメリットです。ただし、自社にM&Aの知識・経験やネットワークがなければ、すぐに候補者を見つけられないでしょう。
そこで、M&Aで親族外承継を実施する場合は、M&A仲介などの専門家に相談することがポイントです。M&A仲介に相談すれば、幅広いネットワークを活用して候補者を見極めたり、手続きに関するアドバイスを受けられたりします。
「スムーズにM&Aを成功させたい」とお考えの売り手企業様は、M&Aで豊富な知見とノウハウを有し、圧倒的なスピード対応を誇る「虎ノ門キャピタル株式会社」にご相談ください。
虎ノ門キャピタル株式会社では、M&Aアドバイザー、会計士や税理士など業界のスペシャリストが、M&Aや事業承継を徹底的にサポートします。M&Aの一歩をなかなか踏み出せない場合は、「無料相談」でM&Aや事業承継に関するお悩みをご相談ください。
人気の記事

投稿日:2024年08月23日更新日:2024年12月12日
地位承継とは?意味や継承との違い、使い分けなどを解説
- #ニュース・コラム
- #スキーム
- #ニュース・コラム
- #スキーム

投稿日:2024年01月31日更新日:2024年12月12日
株式譲渡とは? 非上場企業における手続きや株式譲渡制限について解説
- #ニュース・コラム
- #M&Aの基礎知識
- #ニュース・コラム
- #M&Aの基礎知識

投稿日:2024年06月03日更新日:2024年12月12日
M&Aのディールとは?一連のプロセスと成功につながる4つの秘訣
- #ニュース・コラム
- #M&Aの流れ
- #ニュース・コラム
- #M&Aの流れ
#カテゴリ・タグ一覧
まずはお気軽にご相談ください
※秘密厳守でご対応します。
幅広い業種のM&Aを成約させたプロの
M&Aアドバイザーが丁寧にご対応します。